移住生活をはじめて13年。(2013年現在)
兵庫県の山奥でつつましく自給生活をおくるFさんの春の楽しみ。
Fさんは、多くを発信するような饒舌家ではありません。
むしろ、ほんとうに縁のある方だけをまねいて、
くらしぶりを体験していただくことで、ひとの悟りを待つというタイプです。
Fさんは、奈良の最高級住宅街で何不自由ない暮らしをしていました。
結婚とともに姑に仕え、忍従の日々を送っていました。
そんなある日、阪神淡路大震災で実家が倒壊。
そして、邸宅暮らしにも別れを告げねばならなくなるできごとが・・・。
ひとは、価値観の反転ということばを、(わたしもですが)たやすく口にするが、
それを身をもって体験してのみこまれ、そこから脱け出してくるには
どれほどのエネルギーが必要だったことでしょう。
ゆたかな自然と、最小限の昔ながらの庵スペース。
その物件は、血眼になってさがしまわったのではなく、
まるであらかじめ用意されていたかのように、
ふっと現れたといいます。
そして、直感だけで、手付け。
あれから10年以上の歳月が流れ、
植えたさくらの木は大きくなって、見事な花を咲かせるようになりました。
いろいろな客人を一緒になって迎えてきた愛犬のキクは旅立ちました。
まるで鴨長明が隠遁して住んだ庵のようなこのリトリートに来て、
そこで俗世とまったく異なる価値観を垣間見たひとは
もう何十人、いや何百人もいるでしょう。
311後急速に目覚めつつある新しい価値観とも呼応して、
またひとり俗世を離れる後押しをすることにもなったでしょう。
Fさんは、「そうしなさい」とも「したほうがいい」ともいわないけれど、
消費ではなく手作業に追われる日々がたのしくてしょうがないと
顔に書いてあります。